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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1105号 判決

原告

田村壽啓

ほか一名

被告

中村健二こと洪宋一

ほか一名

主文

一  被告洪宋一は、原告田村壽啓に対し、金三万五七四五円及びこれに対する平成七年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告田村知子の被告洪宋一に対する別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、金五万四八四六円を超えては存在しないことを確認する。

三  原告田村知子の被告岩渕博美に対する別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、存在しないことを確認する。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告洪宋一(以下「被告洪」という。)は、原告田村壽啓(以下「原告壽啓」という。)に対し、金一二万八四六〇円及びこれに対する平成七年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告田村知子(以下「被告知子」という。)の被告洪及び被告岩淵博美(以下「被告岩淵」という。)に対する別紙記載の交通事故(以下「本件事故」という。)に基づく損害賠償債務は、いずれも存在しないことを確認する。

第二事案の概要

本件は、本件事故により物的損害を受けた原告車の所有者である原告壽啓が被告洪に対し民法七〇九条により損害賠償を求め、原告車を運転していた原告知子が被告らに対し債務不存在の確認を求めた事案である。

一  争いのない事実

別紙記載のとおり、本件事故が発生した。

二  争点

1  本件事故につき、原告知子と被告洪の過失の有無及びその過失割合

2  被告車の所有者は被告洪か被告岩渕か。

3  原告壽啓及び被告らの各損害

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲五の一ないし五、六、乙五の一・二、六、原告知子及び被告洪各本人、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場付近の状況は、別紙図面記載のとおりである。

(二) 原告知子は、本件事故直前、原告車を運転し、本件交差点の三、四〇メートル東側の横断歩道手前で一時停止後、先行車に追従して本件交差点付近を西進し、走行車線の左側に駐車車両があつたため、車体の三分の一位を中央分離帯にかからせた状態で走行し、直前で被告車を認めたが、回避措置をとる間もなく、被告車左前部を原告車の右側面に接触させた。

(三) 被告洪は、本件事故直前、被告車を運転して南進し、低速で本件交差点に進入して右折しようとし、左方から西進して来た自動車を見て停止したところ、原告車の先行車とは接触しなかつたが、右車両の後方を追従して西進中の原告車と接触した。

2  被告洪は、本件事故直前、被告車を停止させて原告らの通過を待つていた旨主張し、同被告の供述中には右にそう部分があるけれども、原告車の先行車に接触しないで原告車と接触したこと及び原告知子の供述に照らすと、にわかに採用しがたい。

3  過失

右認定によれば、被告洪は、本件交差点であるT字形交差点に進入し、右折しようとしていたのであるから、直進車の進行を確認のうえ、事故を回避するよう注意して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、この義務を怠つたというべきであるから、民法七〇九条により、原告車の所有者である原告壽啓が受けた物的損害を賠償する責任がある。

また、右によれば、原告知子は、本件交差点に進入するに当たり、前方左右を注視し、減速ないしはハンドル操作をして事故を回避する義務があるのにこれを怠つたというべきであるから、本件事故による被告車の損害を賠償する責任がある。

4  過失相殺

右認定に基づき、原告知子と被告洪の過失割合につき検討する。

原告知子は、走行車線の左側に駐車車両があつたため、原告車の車体の三分の一位を中央分離帯にかからせた状態で走行し、被告車を認めながら回避措置をとることができなかつたため、本件事故が発生しており、通常、中央分離帯は通行すべきでなく、本件のようにその通行が必要と思われる場合、特に前方左右を十分に注意して走行すべきであるから、原告知子の過失はかなり大きいというべきである。

他方、被告洪は、本件事故直前、原告車及びその先行車が進行する左側に駐車車両がいたこともあつて中央分離帯にかからせた状態で走行していることに容易に気づくべきところ、見過ごしたこともあつて、原告車の進路にまで進んで停止させたため、本件接触事故が発生しているから、同被告の過失がないとまではいえない。

その他諸般の事情をも総合考慮すると、原告知子の過失が七割、被告洪の過失が三割とみるのが相当である。

二  争点2について

証拠(甲二、乙二ないし四、被告洪本人、弁論の全趣旨)を総合すると、被告岩渕は、平成七年七月一日、被告洪に対し、被告車を二三〇万円で売却したこと、しかし、所有者名義の変更はなされていないことが認められる。

右によれば、被告車の実質的所有者は被告洪であるというべきである。従つて、原告知子の被告岩渕に対する債務不存在の請求は理由がある。

三  争点3について

1  原告壽啓の損害

証拠(甲三、四、原告知子本人)によれば、本件事故により、原告車は、一一万九一五〇円の修理費を要したことが認められる。

前記の原告知子の七割の過失を原告壽啓側の過失として、過失相殺すると、原告壽啓が被告洪に対して請求できる金額は、三万五七四五円となる。

2  被告洪の損害

証拠(乙一、被告洪本人)によれば、本件事故により、被告車は七万八三五二円の修理費を要したこと、被告洪は、右修理のため、一日代車を借りたが、その費用は支払つていないことが認められる。

前記の被告洪の三割の過失につき、過失相殺すると、同被告が原告知子に対して請求できる金額は、五万四八四六円(円未満切捨)となる。

第四まとめ

以上によると、原告壽啓の請求は、被告洪に対し損害金三万五七四五円及びこれに対する本件事故の日である平成七年七月二〇日から支払済みまで民法所定の五分の割合による遅延損害金の支払、原告知子の請求は、被告岩渕に対する債務不存在確認請求及び被告洪に対し、本件事故に関し、五万四八四六円を超えない限度での債務不存在の確認の限度で理由があるから、これらを認容し、原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

別紙

(一) 発生日時 平成七年七月二〇日午後四時二五分頃

(二) 発生場所 神戸市兵庫区駅前通一丁目三二―一先交差点

(三) 原告車 原告壽啓所有、原告知子運転の普通乗用自動車

(四) 被告車 被告岩渕所有名義、被告洪運転の普通乗用自動車

(五) 事故態様 T字形交差点において、直進中の原告知子運転の原告車と右折中の被告洪運転の被告車が接触した。

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